昨年の11月に、「平和的生存権についての八王子宣言をつくりませんか?」との呼びかけが八平連のメーリングリストでされたときには、何のことかさっぱり判らなかったのですが、3月8日に「平和への権利宣言づくりはどう進んでいるか」という学習会があり、おぼろげながらやっとわかりました。以下は私なりに理解した内容です。

<最終的に目指すこと>

平和への権利を国際法の中に書き込む。国連決議では弱いので、条約化や宣言化を目論む。

<そのために>

国連の人権理事会で採択されること。過去、2008年、2009年、2010年と3回に亘って関連した決議の採決があり、毎回、30カ国ぐらいの国が賛成しているが、日本や欧米諸国など13-14カ国が反対し続けている。

反対する理由としては、安保理事会で対応すべき問題であるということと、基本的人権は個人の権利であって、平和への権利を集団的権利と見るのは権利概念に反するから認められないということである。

人権理事会には、諮問委員会という機関があり、決議案は一旦ここに預けられて検討され、毎年6月に人権理事会の議題にあげられる。

諮問委員会の委員は、各国政府の推薦で、日本からは神戸大学の坂元茂樹教授が委員になっている。

<そのために-NGOとして>

平和への権利を求める活動としては、2002年ごろから始まっており、当初はキューバなど第3世界の国々が中心だったが、2006年ごろからスペイン国際人権法協会が取り上げるようになってきた。

スペインの人たちは、ヨーロッパの発想だけでない世界各地の人びとの意見を取り入れた宣言を作り、諮問委員へ発信(ロビー活動)している。それは、 2006年のルアルカ宣言に始まり、追加や補充がされながら、2010年にはビルバオ宣言、サンティアゴ宣言となってきている。

<そのために-日本のNGOとして>

残念ながら、日本の憲法9条はこの取り組みに貢献できていない。日本では今まで憲法の前文と9条をもとに平和の闘いをしてきた歴史があり、2008 年には名古屋高裁で平和的生存権の具体性を認めた自衛隊イラク派兵違憲判決も出ているので、この国際的な取り組みに貢献できるはずである。

スペインからこの運動の中心となっている人を日本に呼び、4月にシンポジウムを東京と名古屋、大阪で開催する。また同時期に本の出版も予定している。日本の運動の成果を反映して、サンティアゴ宣言に追加、補充をしていきたい。(名古屋宣言?)

<サンティアゴ宣言の内容>

具体的にサンティアゴ宣言とは、以下のサイトに英文が掲載されています。

サンティアゴ宣言(英文)

宣言が掲載されているサイト:スペイン国際人権法協会のサンティアゴ宣言のサイト(英文)
(最下部の宣言へのリンクで英語とスペイン語が逆になっている 2011.3.27)

サンティアゴ宣言の日本語翻訳版が、インターネットサイト上にはないようなので、集会で配布された仮訳から抜粋します。(原文と翻訳文にはイタリック体での強調がありますが省略しました)


平和への人権に関するサンティアゴ宣言
平和への人権に関する国際会議は、

2010年フォーラム(平和教育に関する世界社会フォーラム)を機にサンティアゴ・デ・コンポステーラで2010年12月9日、10日に会合し、

以下専門家会議・地域セミナーの結論と勧告に留意し、
ジュネーブ(国際機関改革のためのNGO世界会議、2006年11月);<略>

独立専門家から構成されるそれぞれ異なった起草委員会によって採択された「平和への人権に関するルアルカ宣言(2006年10月30日)、「平和へ の人権に関するビルバオ宣言(2010年2月24日)及び「平和への人権に関するバルセロナ宣言(2010年6月2日);並びにラ・プラタ(アルゼンチ ン、2008年11月);ヤウンデ(カメルーン、2009年2月)、バンコク(タイ、2009年4月);ヨハネスブルグ(南アフリカ、2009年4月)、 サラエボ(ボスニア・ヘルツェコビナ、2009年10月)、アレクサンドリア(エジプト、2009年12月)、ハバナ(キューバ、2010年1月)におい て市民社会の専門家によって採択された平和への人権に関する地域的宣言に特に留意し、

1.-できるかぎりすみやかな国連総会による採択をめざして、コンセンサスにより、本決議の付属書に示されている、平和への人権に関するサンティアゴ宣言を承認することで合意し、

2.-NGO及び連携機関を含むあらゆる市民社会諸団体に対し、「平和への人権に関するサンティアゴ宣言」を世界中で広く普及させ、解説し、公知するよう要請する。

サンティアゴ・デ・コンポステーラ、2010年12月10日


付属書
平和への人権に関するサンティアゴ宣言
-前文-
総会は、
(1) 国連憲章の前文及びそこに規定された目的と原則に従い、平和は普遍的な価値であり、「機構」の存在理由であり、かつすべての者が人権を享有するための前提条件及び帰結であることを考慮し、

(2)国際法の画一的、非選択的かつ妥当な適用が平和の達成に必須であることを考慮し;また、国際の平和と安全の維持-これは、とりわけ、人民の経 済的社会的発展と一切の差別なしの人権および基本的自由の尊重とを通じて達成されるべきである-と国連憲章第1条が「機構」の基本目的としていることを想 起し、

(3)平和の積極的側面-これは武力紛争の厳格な不在を越えるものであるとともに、公的・民間の両セクターにおける直接的、政治的、構造的、経済的 あるいは文化的なあらゆる類型の暴力の廃絶と結びつくものでもある-を認め、また、それが、人間のニーズを満たすための一条件としての人民の経済的、社会 的、文化的発展と、すべての人権及び人類社会の全構成員の固有の尊厳の実効的尊重とを必要とするものであることを認め、

(4)平和は生命や文化-その基盤は自己認識(アイデンティティ)である-の多様性と不可分であることを考慮し;したがって、諸権利のうち第一のものは生命に対する権利であり、そこから他の権利や自由、特にすべての人の平和に生きる権利が出てくることを確認し、

<略>

(8)教育が普遍的な平和の文化の確立に不可欠であること、および国連教育科学文化機関の前文のとおり「戦争は人の心の中で生まれるものであるか ら、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」であることを考慮し;11月16日に、ユネスコ総会によって採択されたセビリア声明を考慮し、

(9)表現の自由の全面的尊重と両立できる市民的及び政治的権利に関する国際規約第20条の戦争宣伝の禁止及び憎悪と暴力の扇動の禁止を想起し、

(10)国際人権法、国際労働法、国際人道法、国際刑事法及び国際難民法に記された原則及び規範に鑑み;そしてこうした人権の原則及び規範は不可 譲、普遍的、不可分、相互依存的であること、及び、それらが権利における男女の平等と並んで、人、特に子ども及び青年の尊厳及び価値を再確認するものであ ることを考慮し、

<略>

(26)人類の全歴史を通じて、平和は全文明の不断の希求でありつづけていること、したがってすべての人が平和の実効的な実現のために努力を結集すべきであることも確信し、

(27)人類史に跡を残してきたあらゆる平和運動、思想-1999年の平和会議のためのハーグ・アピールから生まれた「21世紀のための平和と正義 に向けたハーグ・アジェンダ」、2000年6月29日にハーグで採択された「地球憲章」、気候変動及び母なる地球の権利に関する世界人民会議の枠組みにお いて2010年4月22日にコチャバンバ(ボリビア)で採択された「母なる地球の権利の世界宣言」を含む主な成果に近年、結晶化された-に敬意を払い、

(28)同権及びジェンダーによる差異の尊重の実現なくしては;普遍的に認められた人権と両立する異なる文化的価値及び宗教的信念の尊重なくして は;そして人種主義・人種的差別・外国人排斥、その他の関連する不寛容の撤廃なくしては;平和への人権が達成され得ないことを確認し、

(29)あらゆる国が、平和を人権だと認め、その管轄下にいるすべての人によるこの権利の享有を人権、世系、国民的・民族的・社会的出自、肌の色、 ジェンダー、性的志向、年齢、言語、宗教や信念、政治的その他の意見、経済的状況、財産、様々な身体的あるいは精神的機能、民事法上の身分(civil status)、出生、その他のいかなる条件による区別もなしに独立に確保することが、緊要であることを確信し、

以下の「宣言」を掲げる:


第一部
平和への権利の諸要素
セクションA 権利
第1条
権利保持者と義務-保持者
1.個人、集団、人民及びすべての人間が、正義にかない、持続可能で、永続的な平和への不可譲の権利を有する。この権利により、彼らはこの「宣言」に掲げられた権利および自由の保持者である。

<略>

3.侵略、集団殺害(ジェノサイド)、人種主義、人種差別、外国人排斥及びその他の関連する形態の不寛容、ならびにアパルトヘイト、植民地主義及び新植民地主義を受けているすべての個人及び人民は、平和への権利の侵害の被害者として特に注目されるに値する。

第2条
平和及びその他あらゆる人権に関する、及びそれらのための教育への権利
1.平和のための教育と社会化は、戦争を忘れ、暴力から解放された自己認識を築くための必須条件である。

<略>

第3条
人間の安全保障、及び安全かつ健康的な環境で暮らすことへの権利
1.個人は、恐怖からの自由及び欠乏からの自由-ともに積極的平和への要素である-を含む、人間の安全保障への権利を有する。

<略>

第4条
発展及び持続可能な環境への権利
1.平和への人権と構造的暴力の根絶を実現するには、あらゆる人権及び基本的自由が完全に行使されうるような経済的・社会的・文化的及び政治的発展 に寄与し、その発展を享有する権利と並んで、その発展に参加する不可譲の権利を、すべての個人及び人民が享有することが必要である。

<略>

第5条
不服従及び良心的兵役拒否の権利
1.すべての人民及び個人は、いかなる国家からも敵だとみなされない権利を有する。

<略>

第6条
抑圧に抵抗し、反対する権利
1.すべての人民及び個人は、人民の自決権を含む国際法に従って、国際犯罪や他の重大、大規模あるいは組織的な人権侵害を犯す、すべての体制に抵抗し反対する権利を有する。

<略>

第7条
軍備縮小への権利
1.すべての人民及び個人は、すべての国家が共同・協調して合理的期間内に一般的かつ完全な軍備縮小を、包括的かつ実効的な国際的監督の下に実施す るよう要求する権利を有する。とくに、国家は、核兵器、化学兵器、生物兵器を含むあらゆる大量破壊兵器や無差別効果兵器を緊急に撤廃しなければならない。 加えて、国家はその軍隊と外国軍事基地を前進的に廃止するため、効果的かつ協調的方法を採用すべきである。

<略>

第8条
思想、意見、表現、良心及び宗教の自由
1.すべての人民及び個人は、戦争や侵略の目的のための情報操作から保護されるために、国際人権法の定めるところに従って、検閲なしに多様な情報源から情報にアクセスし、かつそれを受け取る権利を有する。

<以下略>


<参考>

日本国際法律家協会

平和的生存権を世界へ ―「平和への権利」国際会議

前田朗Blog

平和的生存権のグローバル化

いま平和的生存権が旬だ!

幻の「八王子宣言」

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