ダグラス・ラミスさんの「要石:沖縄と憲法9条」という本の出版を記念した「東京へ、普天間基地を!」という刺激的なタイトルのトークセッションが、1月20日にジュンク堂書店でありました。
ダグラス・ラミスさんの対談相手である遠藤洋一さんは、前福生市議会議員で、横田基地の反基地運動を長年担ってきている人ですが、ラミスさんとはべ平連時代から40年来の知人でもあるとのことです。
ブログに以前に書いたように、その遠藤さんに、ラミスさんが沖縄の基地を本土で引き取ってほしいといったところ、「それは面白い」という反応だったということだったので、興味を持って聞きに行きました。以下は私のメモです。
ラミスさん:今回歴史的な知事選があった。立候補者3人のうち、仲井真さんと伊波さんは言い方は違うが基地反対で、合計すると97%になる。もし私 に選挙権があったら伊波さんに入れたろうが、進んで入れるわけではない。伊波さんはグアムに基地を持っていくことを主張しており、これを選ばなかったのは 尊敬に値する選択だ。仲井真さんが県外移設を言ったのは日和見主義だという意見もあるが、それでよい。有権者が彼に言わせたのであって、民主主義とはそう いうことだ。
県外移設というのは、数年前まではタブーだったが、1年前から議論の主流になった。問題の中心を真剣に取り上げてどう反論するか、あるいはしないかだ。
始めに2つのイメージを持ってほしい。ひとつは、100人の小学生がいたときに、一人の小学生(沖縄)に75個のランドセル(基地)を背負わせてい るという現状だ。その小学生が他の人にランドセルを背負ってほしいといっているのに対し、ランドセルをなくす運動をしているので、待ってくださいという反 論がある。ところが実は、99人が25個のランドセルを運ぶのはあまりつらくないので、ランドセルをなくす運動はあまりやっていない。
もう一つは、要石のイメージ。要石というのは、アーチがあったときに、左右から倒れようとする力を中央で止めて固めてしまう。憲法9条を変えたくな いという人が過半数いる一方で、6割の人は日米安保は変えたくないという現状がある。矛盾しているので崩れる筈だが、崩れないのは沖縄が要石になっている からだ。多くの基地を沖縄に置けば、日本国憲法を持ちながらも安保があり、安心できるということだ。
遠藤さん:基地はお引取り願うしかないが、難しい。基地をなくすべきだと思うが、明日なくせるわけではない。海兵隊はもともと山梨や岐阜にいた。沖縄返還で沖縄に行き、1995年の事件で沖縄の負担軽減ということで実弾演習を九州など4ヶ所に分散している。
現状は、安保条約や地位協定を守るということすら成り立っていない。
いつのまにか憲法9条と安保の両方に賛成の人が増えている。負担軽減という言い方でなく、米軍という負担をなくすということではないか。日本を越えて行くミサイルを落とすためのミサイル防衛など、ここはアメリカなのか日本なのかわからなくなる。
県外移設といってもどこへ行くかはっきりしない。どこも手を上げているわけでない。どこに行くイメージなのか。
ラミスさん:沖縄の用語としては、県外というのは日本本土のこと。日米安保に賛成している人達のところにという意味だ。
遠藤さん:どこかで決め事をしなかれば行けないが、今の政権には県外移設のイメージはなく、しびれを切らすのを待っているのだろう。帰ってもらうというのは無理なのか。
ラミスさん:アメリカに帰れというビラは書ける。フィリピンは追い出している。日米安保をなくす世論を作らなければいけない。60年安保から半世紀 して、6月行動には250人の人しか集まっていない。無理ではないが、時間がかかる。それを待っている間にどこに基地を置くのか。10年先ではなく、今年 決めなければいけない。やっぱり沖縄に置き続けるということか。
遠藤さん:とても困る。どの人も自分の裏庭に来てほしくない。役に立たない施設が来てほしくない。基地の4分の1、5分の1をなくすということでは どうか。リムピースのサイトを見ていただくと判るように、ニュースの8割は海軍のことなので、残りは帰ってもらう。問題外なのは、新しく基地を作ること。 減らすことはできるというのではない。
ラミスさん:減らすべきという世論をどう作るかということだ。そのような世論は動いていない。沖縄の政治力で安保をなくすことはできない。本土から運動家が来て、安保をなくそうというが、そのような動きは毎年減る。1960年代後半は、安保粉砕といわないデモはなかった。
辺野古はすでに長年反対をしてきているのに、本土だったら反対するだろうからおけないというが、これは差別だ。
遠藤さん:前に進むにはどうしたらよいか。1971年に最初に沖縄に行ったが、沖縄の構造は変わっていない。解決方法はないだろうか。基地のことを考えましょうで終わってしまう。
<会場との意見交換>
会場:1973年の長沼訴訟の原告は270人だったが、2008年の名古屋での自衛隊イラク派兵差し止め訴訟の原告は5700人だった。違う面から見れば変わってきている。裁判など何か方法はないか。
ラミスさん:裁判は是非やり続けるべきだと思う。正直に話せば判ってもらえる。今年できそうなことと、遠い将来のことは戦略が違う。辺野古には置け ない。グアムは、沖縄より弱い植民地だ。横田基地が駄目なら佐賀空港ではどうか。埋め立てもしなくてよい。佐賀空港に首相が行って何故圧力をかけないの か。安保条約をなくす運動とは矛盾しない。
会場:安保の名前は知っているが、詳しくは知らない。1995年に沖縄で何があったのか。辺野古に作られてしまうとあきらめていた。
ラミスさん:本土と沖縄の常識は違う。新聞が違うし、世界観が違う。県知事が認めないとできないし、政治的にできない。諦めないでほしい。
会場:東京にいてできることは何か。
ラミスさん:勉強会をするのでもよいし、することは沢山ある。安保反対でない人は、県外移設に反対できないはずだ。
会場:反戦、平和ということと、人権、差別反対が一緒になって本土と沖縄が始めて連帯できる。
会場:皇居へ普天間基地を持ってくるというのはどうか。
ラミスさん:皇居とか、ディズニーランドとかいうのは必ずでて、みんなうれしくなるが、酒場の独立論と同じで、議論が可能な話から不可能な話になってしまう。実現可能な提案ほど怖い。
遠藤さん:どこかが引き受けなければいけないという議論に持っていかないほうがよい。
この会場自体、「要石:沖縄と憲法9条」の出版を記念したイベントなので、ある程度の知識がある人が集まっていると思っていましたが、安保について あまり知らないという人がいて少々びっくりしました。終わった後の懇親会でも、学生に教えていて、ソ連という国があったことを初めて知ったという学生がい たという話があり、常識と思っている現代史を知らない人が増えているということを前提に考えないといけないようです。
普天間基地の県外移転については、議論としては難しいということを改めて確認してしまいました。ただ、2011年春号の「通販生活」の表紙には、以下の文章があるのを見つけました。
昨年もまた第1位は17年連続でメディカル枕。
「これなら安眠できる」というリピーターが多いからだ。
ところが、この人気枕を年間でたった17人しか買ってくれない市があった。
夜間も米軍機離着陸騒音に苦しめられている、
あの普天間基地をかかえている宜野湾市(人口93,453人)。
そうだった、メディカル枕で安眠できる幸せとは、
メディカル枕でも安眠できない沖縄県民の
犠牲の上につくられていたのだった。
ゆえに通販生活としては、沖縄県民の「普天間県外移転要求」を
つよく応援しないわけにはいかないのだ。
普天間基地はアメリカに引き取ってもらおうよ。
それがムリなら、クジ引きで本土の都道府県に移転しようよ。
<注:「県外」は原文では傍点>
そのほか、2月11日号の「週刊金曜日」の論争欄には、「普天間基地を小松基地に移設せよ」という投稿が掲載されており、本土でも少しずつこの議論が始まっていると思います。残念ながら私はまだ宿題が終わっていませんが・・・。